生前贈与とは、存命中に自分の財産を家族や親族へ無償で渡す行為のことです。適切に活用すれば、将来の相続税を大幅に軽減できる有効な節税対策になります。ただし、2024年の税制改正により非課税ルールが変わったため、最新情報をもとに正しく理解することが重要です。
この記事では、生前贈与の基本的な仕組みから、暦年贈与・相続時精算課税制度の使い分け、非課税枠を最大限に活用する具体的な方法まで、税理士監修のもとわかりやすく解説します。また、贈与契約書の作り方や手続きの流れ、税務署に否認されないための注意点についても網羅的にカバーしています。
「そもそも生前贈与って何から始めればいい?」「名義預金や定期贈与の落とし穴が不安…」という方でも、この記事を読めば疑問をスッキリ解消できます。ぜひ最後までご覧ください。
生前贈与とは?相続との違いを基本からわかりやすく解説
生前贈与の定義:財産を「生きているうちに」渡す契約行為
生前贈与とは、財産を持つ人(贈与者)が存命中に、自分の財産を他の人(受贈者)へ無償で渡す行為のことです。民法上は「贈与契約」に分類され、贈与者が「あげます」・受贈者が「もらいます」という双方の意思表示があって初めて成立します。
重要なのは、どちらか一方の意思だけでは成立しない点です。たとえば親が子どもの口座に黙ってお金を振り込んだだけでは、受贈者の承諾がないため正式な贈与と認められないケースがあります。これは後述する「名義預金」問題にもつながる注意点です。
贈与の対象は現金・預貯金だけでなく、不動産・株式・保険・貴金属など、経済的価値のあるあらゆる財産が含まれます。生前贈与を正しく活用するためには、まずこの「双方の合意に基づく契約行為」という原点をしっかり押さえておきましょう。
相続との違い:誰に・いつ・どのように財産を渡すかが根本的に異なる
相続と生前贈与は、どちらも「財産を他者へ移転する」行為ですが、そのタイミングと対象者に大きな違いがあります。
相続は、財産を持つ人が亡くなった後に発生します。原則として法律で定められた法定相続人(配偶者・子・親など)へ財産が移転し、遺言がなければ民法の規定に従って分割されます。つまり、誰に渡るかを生前に細かくコントロールすることが難しい側面があります。
一方、生前贈与は生きている間に行うため、渡す相手を自由に選べます。法定相続人である子どもだけでなく、孫・兄弟・友人・第三者など、誰に対しても贈与が可能です。たとえば「相続人ではない孫に教育資金を渡したい」「特定の子どもに事業を引き継がせたい」といった意向も実現できます。
また、相続では財産移転のタイミングが死亡時に限られますが、生前贈与は毎年計画的に少しずつ渡すことができるため、長期的な財産設計が立てやすいという特徴もあります。
生前贈与が注目される理由:相続税対策として有効な手段
近年、生前贈与が多くの方に注目される最大の理由は「相続税の負担を合法的に軽減できる」点にあります。相続税は、亡くなった時点での財産総額をもとに計算されます。つまり、生前に少しずつ財産を渡しておけば、その分だけ相続財産を減らし、結果として相続税を抑えることが期待できます。
たとえば、年間110万円の基礎控除を活用した「暦年贈与(れきねんぞよう)」という方法では、毎年110万円以内の贈与であれば贈与税がかかりません。10年間継続すれば合計1,100万円を非課税で渡せる計算になります。
ただし、2024年(令和6年)の税制改正により、暦年贈与で贈与した財産を相続財産に加算する期間が、従来の「死亡前3年以内」から「死亡前7年以内」に延長されました。この改正は2024年1月1日以降の贈与から段階的に適用されるため、早めに計画を立てることがこれまで以上に重要になっています。
相続対策として生前贈与を検討する際は、最新の税制をふまえたうえで、税理士などの専門家に相談しながら進めることを強くおすすめします。
【2024年税制改正対応】暦年贈与と相続時精算課税制度の違いと選び方
暦年贈与とは?2024年改正後の注意点
暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間に受け取った贈与額が110万円以下であれば贈与税がかからない、という「基礎控除」を活用した贈与方法です。毎年繰り返すことで、長期間にわたって大きな財産を税負担なく移転できる点が最大の魅力です。
例えば、子ども2人に毎年110万円ずつ10年間贈与した場合、合計2,200万円を非課税で渡せます。相続税率が30%の方であれば、単純計算で約660万円の節税効果が期待できます。
ただし、2024年税制改正で見逃せない変更点があります。それが「生前贈与加算期間の延長」です。従来は相続開始前3年以内の贈与が相続財産に加算されていましたが、2024年1月1日以降の贈与から、この期間が最長7年に延長されました。亡くなる直前の贈与は節税効果が薄れるため、できるだけ早い時期から計画的に始めることが一層重要になっています。なお、延長された4年分(4〜7年前の贈与)については総額100万円の控除が設けられているため、全額が加算されるわけではありません。
相続時精算課税制度とは?2024年改正で使いやすくなった理由
相続時精算課税制度とは、60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子・孫への贈与に適用できる制度で、累計2,500万円までの贈与が非課税(贈与税ゼロ)になる代わりに、贈与した財産を相続時に相続財産へ合算して精算する仕組みです。「今は非課税、後で精算」と覚えておくとわかりやすいでしょう。
2024年税制改正の最大のポイントは、この制度に「年間110万円の基礎控除」が新設されたことです。改正前は、一度この制度を選ぶと少額の贈与でも申告が必要でしたが、改正後は年110万円以下の贈与であれば申告不要・相続財産への加算も不要になりました。つまり、毎年110万円の非課税枠を使いながら、必要に応じて大きな金額(不動産や自社株など)を贈与するという柔軟な活用が可能になったのです。
ただし、一度この制度を選択すると暦年贈与には戻れないため、慎重な判断が求められます。
どちらを選ぶべき?家族構成・資産規模別の判断基準
暦年贈与と相続時精算課税制度、どちらが有利かは「誰に・いつ・何を・どれくらい贈与するか」によって大きく異なります。以下の比較表と判断基準を参考にしてください。
【制度比較の早見表】
- 非課税枠:暦年贈与=年110万円 / 相続時精算課税=年110万円+累計2,500万円
- 相続への加算:暦年贈与=7年以内の贈与が対象 / 相続時精算課税=110万円超の贈与が対象
- 申告義務:暦年贈与=110万円超の場合のみ / 相続時精算課税=110万円超の場合のみ(改正後)
- 財産の値上がり益:暦年贈与=課税なし / 相続時精算課税=贈与時の価額で精算するため値上がり益は非課税
【こんな方には暦年贈与がおすすめ】
贈与できる期間が10年以上ある方、受贈者(もらう側)が複数いる方、少額をコツコツ移転したい方に向いています。子・孫など多人数に贈与できるため、分散効果が高くなります。
【こんな方には相続時精算課税がおすすめ】
値上がりが見込まれる不動産や自社株を早期に移転したい方、まとまった資金を一度に渡したい方、贈与できる期間が短い方(60代後半以降に贈与を開始する場合など)に適しています。改正後は使い勝手が大幅に向上したため、以前より幅広いシーンで検討する価値があります。
いずれの制度も、家族構成や資産規模によって最適解は変わります。年間の贈与計画を立てる前に、必ず税理士に相談してシミュレーションを行うことをおすすめします。
生前贈与の非課税枠を最大限活用する7つの方法
①暦年贈与の基礎控除110万円を毎年コツコツ活用する
生前贈与の非課税枠として最も基本的な方法が「暦年贈与」です。毎年1月1日から12月31日までの1年間に受け取った贈与額が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。
たとえば、子ども2人に毎年110万円ずつ10年間贈与した場合、合計2,200万円を非課税で渡すことができます。仮に相続税の税率が30%の方であれば、約660万円の節税効果が期待できる計算です。
ただし、2024年の税制改正により、相続発生前に贈与した財産を相続財産に加算する「生前贈与加算」の期間が従来の3年から7年に延長されました(2024年1月1日以降の贈与分から段階適用)。長期的な計画を立てることがより重要になっています。
②複数の受贈者への分散贈与でさらに効果を高める
非課税枠の110万円は「贈与を受ける人ひとりあたり」に適用されます。そのため、子どもだけでなく孫や子の配偶者など、受贈者を増やすことで年間に移転できる財産を大幅に拡大できます。
例として、子ども2人・孫4人の計6人に毎年110万円ずつ贈与すると、年間660万円・10年間で6,600万円を非課税で贈与することが可能です。相続財産の圧縮効果は絶大で、大きな資産をお持ちの方ほど早めに取り組む価値があります。
贈与を受ける側が未成年の孫である場合も、贈与契約書を作成し、専用の口座に入金するなど「名義預金」と見なされないよう適切な手続きをとることが大切です。
③住宅取得等資金の非課税特例(最大1,000万円)を使う
子や孫がマイホームを購入・増改築する際に資金援助をするなら、「住宅取得等資金の贈与の非課税特例」を活用しましょう。省エネ基準を満たす住宅であれば最大1,000万円、それ以外の住宅でも最大500万円まで非課税となります。
適用には「贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上」「贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下」などの条件があります。また、取得した住宅に贈与を受けた翌年3月15日までに居住していることも要件のひとつです。
暦年贈与の110万円と組み合わせることで、最大1,110万円を一度に非課税で渡すことも可能です。適用期限が設けられているため、税理士に最新情報を確認しながら活用してください。
④教育資金一括贈与の非課税特例(最大1,500万円)を活用する
祖父母や父母が、30歳未満の子や孫の教育資金として金融機関の専用口座に一括贈与した場合、最大1,500万円(学校等以外の塾・習い事等は500万円)まで非課税になります。
資金は金融機関が管理し、領収書を提出することで教育費として払い出す仕組みです。受贈者が30歳になった時点で残額があれば贈与税の課税対象となります。また、2023年度の税制改正で贈与者が死亡した場合の取り扱いが見直されており、条件によっては残額が相続税の課税対象になるケースもあります。
現在の適用期限は2026年3月31日まで。教育費の負担が大きい家庭では特に有効な非課税枠です。
⑤結婚・子育て資金贈与の非課税特例(最大1,000万円)を使う
18歳以上50歳未満の子や孫の結婚・子育て資金として、専用口座に一括贈与した場合、最大1,000万円(結婚費用は300万円が上限)まで非課税になります。
対象となる費用は、結婚式・新居の費用、不妊治療・妊娠・出産・育児にかかる費用など幅広く認められています。こちらも金融機関の管理口座を通じた仕組みで、50歳時点の残額には贈与税が課税されます。
適用期限は2025年3月31日まで。晩婚化・少子化対策を意識した特例で、若い世代への資産移転を早期に進めたい方に適しています。教育資金特例との併用も可能なため、まとめてプランニングすることをおすすめします。
⑥贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)で不動産を最大2,110万円まで非課税に
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための資金を贈与する場合、最大2,000万円の配偶者控除が受けられます。暦年贈与の基礎控除110万円と合わせると、合計2,110万円まで非課税で贈与が可能です。
この「おしどり贈与」は一生に一度しか使えませんが、相続発生前の生前贈与加算の対象外となる点が大きなメリットです。配偶者の老後の生活を守りながら相続税対策にもなるため、特に自宅の評価額が高い都市部にお住まいの方に有効です。
不動産の名義変更には登記費用や不動産取得税がかかる場合もあるため、事前に税理士・司法書士へ相談しておきましょう。
⑦相続時精算課税制度の2024年改正で新設された110万円基礎控除を活用する
2024年の税制改正で、相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が新設されました。これにより、60歳以上の祖父母・父母から18歳以上の子・孫への贈与において、毎年110万円以下の部分は相続時に加算されず、申告も不要になりました。
従来の相続時精算課税は「2,500万円まで贈与税がかからない代わりに、相続時に全額精算する」という仕組みでしたが、改正後は少額の毎年贈与にも使いやすくなっています。暦年贈与の加算期間が7年に延長された今、状況によっては相続時精算課税を選択する方が有利なケースも増えています。
どちらの制度が有利かは資産規模・家族構成・贈与するタイミングによって異なります。専門家のシミュレーションを受けた上で最適な方法を選びましょう。
生前贈与の具体的なやり方と手続きの流れ【贈与契約書テンプレート付き】
ステップ①:贈与契約書を作成する
生前贈与を正式に成立させるためには、まず「贈与契約書」を作成することが大切です。口約束でも贈与自体は法的に成立しますが、後から「贈与ではなく貸付だった」「本人の意思ではなかった」などのトラブルや税務調査のリスクを避けるために、必ず書面で残しておきましょう。
贈与契約書に記載すべき主な項目は以下のとおりです。
- 贈与者(あげる側)の氏名・住所
- 受贈者(もらう側)の氏名・住所
- 贈与する財産の内容(現金の場合は金額、不動産の場合は所在地・地番・面積など)
- 贈与の実行日(「○年○月○日に引き渡す」など具体的な日付)
- 贈与者・受贈者それぞれの署名・押印(実印が望ましい)
さらに信頼性を高めたい場合は、公証人役場で「確定日付」を取得するのがおすすめです。確定日付とは、その日付にその書類が存在したことを公証人が証明するもので、手数料はわずか700円です。税務調査の際に贈与の事実を客観的に証明できるため、特に高額な贈与の場合は取得しておくと安心です。
ステップ②:財産の種類に応じた贈与を実行する
贈与契約書を作成したら、実際に財産を移転させます。財産の種類によって手続きが異なるため、それぞれの方法を押さえておきましょう。
【現金贈与の場合】
現金を手渡しするのではなく、必ず銀行振込で行いましょう。振込の記録が通帳に残るため、贈与の事実を明確に証明できます。受贈者の口座は、受贈者本人が管理している口座を使用することが重要です。親が子ども名義の通帳を管理している場合は「名義預金」とみなされ、贈与が無効になるリスクがあります。この点は生前贈与における最大の注意点の一つです。
【不動産贈与の場合】
不動産を贈与する際は、法務局での「所有権移転登記」が必要です。登記をしなければ、第三者に対して所有権を主張できません。手続きには固定資産評価証明書(市区町村役場で取得)、贈与契約書、印鑑証明書などが必要で、司法書士に依頼するのが一般的です。また、不動産贈与には贈与税に加えて不動産取得税・登録免許税もかかるため、事前にコスト計算をしっかり行いましょう。
ステップ③:贈与税の申告・納税を行う
贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日の間に、贈与税の申告・納税を行う必要があります。年間110万円の基礎控除(暦年贈与)を超えた場合は申告が必要です。なお、2024年税制改正で相続時精算課税制度にも年110万円の基礎控除が新設されたため、この制度を選択した方も申告手続きが変わります。
申告に必要な主な書類は以下のとおりです。
- 贈与税の申告書(第1表・第2表など)
- 贈与契約書のコピー
- 受贈者の戸籍謄本(親族関係を証明する場合)
- 不動産贈与の場合は固定資産評価証明書など
申告はe-Tax(国税庁の電子申告システム)を利用すると、自宅から手続きが完結するので大変便利です。e-Taxを使うには事前にマイナンバーカードとICカードリーダー、またはスマートフォンが必要です。国税庁のホームページにある「確定申告書等作成コーナー」から贈与税の申告書を作成できます。申告期限を過ぎると無申告加算税(最大20%)や延滞税が発生するため、期限には十分注意しましょう。
【実用】贈与契約書テンプレートと手続きチェックリスト
以下に、現金贈与の際に使えるシンプルな贈与契約書のテンプレートを掲載します。
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【贈与契約書】
贈与者(氏名)_____ 以下「甲」という。
受贈者(氏名)_____ 以下「乙」という。
甲は乙に対し、下記の財産を贈与することを約し、乙はこれを受諾した。
贈与財産:金_____ 円也
贈与実行日:_____ 年 _____ 月 _____ 日
振込先口座:_____ 銀行 _____ 支店 口座番号 _____
上記の契約を証するため、本書2通を作成し、甲乙それぞれ署名押印のうえ各1通を保管する。
_____ 年 _____ 月 _____ 日
甲(住所・氏名・押印)
乙(住所・氏名・押印)
- —
手続きチェックリストとしては、「①贈与契約書の作成と署名押印 → ②確定日付の取得(任意) → ③銀行振込による贈与の実行 → ④通帳・振込明細の保管 → ⑤翌年の贈与税申告(必要な場合)」の順で進めることを確認してください。毎年この流れを繰り返すことで、将来の相続税対策として着実に資産を移転させることができます。
税務署に否認されないための5つの注意点【名義預金・定期贈与の落とし穴】
注意点①:名義預金と判断されると贈与が無効になる
生前贈与でもっとも多い税務署の否認理由が「名義預金」です。名義預金とは、口座の名義は子どもや孫になっているものの、実質的には贈与者(親・祖父母)がお金を管理している状態のことを指します。
具体的には、「受贈者(もらった側)が口座の存在すら知らない」「通帳や印鑑を贈与者が手元に置いている」「贈与を受けた本人がお金を自由に使えていない」といったケースが該当します。税務署はこれらを「贈与が成立していない」と判断し、相続財産として課税することがあります。
対策としては、贈与を受けた本人が自分で管理できる口座を使い、通帳・印鑑・キャッシュカードはすべて受贈者本人が保管することが大原則です。贈与後にそのお金を本人が実際に使っている実績があると、さらに贈与の成立を証明しやすくなります。
注意点②:定期贈与(連年贈与)は一括贈与とみなされるリスクがある
「毎年110万円ずつ10年間贈与する」という計画を最初から取り決めていた場合、税務署に「最初から1,100万円の贈与を10回に分けただけ」と判断されることがあります。これを定期贈与(連年贈与)といい、一括で1,100万円の贈与があったとして高額の贈与税が課される危険があります。
回避するには、毎年の贈与金額を固定せず意図的に変える(例:ある年は80万円、別の年は100万円)、贈与のタイミングを毎年同じ日にしない、そして毎年新たな贈与契約書を締結することが有効です。「あらかじめ総額を決めた計画的な分割」に見えないよう、年ごとに独立した贈与として扱うことが重要です。
注意点③:現金手渡しは証拠が残らず否認リスクが高い
「現金を直接手渡しすれば税務署にバレない」と考える方もいますが、これは逆効果です。証拠がない=贈与の事実を証明できないということであり、税務調査が入った際に「贈与があった」と主張する根拠がなくなってしまいます。
生前贈与は必ず銀行振込で行い、お金の流れを通帳に記録として残しておくことが鉄則です。さらに、毎回の贈与について贈与契約書を作成しましょう。贈与契約書には「贈与者・受贈者の氏名」「贈与する金額」「贈与日」「受取口座」を明記し、双方が署名・捺印します。可能であれば公証役場で確定日付を取得すると、より証拠力が高まります。
注意点④:贈与税の申告・納税を忘れずに行う
年間110万円の基礎控除内であれば贈与税の申告は不要ですが、110万円を超える贈与を行った場合は、翌年2月1日〜3月15日までに贈与税の申告・納税が必要です。申告を怠ると「無申告加算税」や「延滞税」が課されるため注意が必要です。
また、2024年の税制改正で相続時精算課税制度に110万円の基礎控除が新設されました。この制度を選択した場合は毎年の申告が原則必要となるケースもあるため、制度の仕組みをしっかり理解したうえで活用することをおすすめします。不明な点は税理士に相談することで、申告漏れのリスクを大幅に減らせます。
注意点⑤:生前贈与加算に注意(相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される)
2024年税制改正により、相続開始前に行われた暦年贈与が相続財産に加算される期間が「3年」から「7年」に延長されました。つまり、亡くなる7年以内に行った贈与は、たとえ毎年110万円以内であっても相続税の計算に含まれる可能性があります(延長された4年分については合計100万円の控除あり)。
この改正は2024年1月1日以降の贈与から段階的に適用されるため、「もう少し早く始めていれば…」とならないよう、生前贈与は早めに、そして長期的な視点で計画することが節税の鍵です。「贈与すれば必ず節税になる」という思い込みは危険で、相続全体の設計を踏まえた戦略的な判断が求められます。税理士と連携しながら、名義預金・定期贈与・加算期間の3つのリスクをしっかり管理しましょう。
不動産の生前贈与で知っておくべきポイントと費用シミュレーション
不動産の生前贈与にかかる3つの税金
不動産を生前贈与する場合、現金の贈与と大きく異なる点があります。それは、贈与税以外にも「不動産取得税」と「登録免許税」が追加でかかる点です。
まず贈与税は、不動産の評価額(路線価や固定資産税評価額をもとに算出)が110万円の基礎控除を超えた部分に課税されます。次に不動産取得税は、不動産を取得した際に都道府県から課される税金で、固定資産税評価額の原則4%(土地・住宅は軽減措置あり)が課されます。相続の場合は不動産取得税が非課税となるため、この差は非常に大きいポイントです。さらに登録免許税は、名義変更(所有権移転登記)の際にかかる税金で、生前贈与の場合は固定資産税評価額の2%、相続の場合は0.4%と、実に5倍の差があります。
たとえば固定資産税評価額が2,000万円の不動産であれば、登録免許税だけで贈与時は40万円、相続時は8万円と32万円もの差が生じます。こうしたコストが積み重なるため、不動産の生前贈与は「税負担が相続よりも大きくなるケース」が少なくないのです。
見落としがちな「小規模宅地等の特例」が使えなくなるリスク
不動産の生前贈与を検討する際に、特に見落とされがちなのが「小規模宅地等の特例」の喪失リスクです。
小規模宅地等の特例とは、被相続人(亡くなった方)が自宅として使っていた土地を相続する際に、一定の要件を満たせば土地の評価額を最大80%減額できる制度です。たとえば評価額3,000万円の自宅土地であれば、相続時には600万円に圧縮して相続税を計算できます。
ところがこの特例は、あくまで「相続または遺贈」によって取得した場合にしか適用されません。生前贈与によって土地を渡してしまうと、この強力な節税策が永久に使えなくなります。評価額3,000万円の土地に対して80%減額が効かなくなるということは、課税対象が2,400万円も増えることを意味します。相続税の税率が20〜30%の方なら、それだけで480万〜720万円の税負担増につながる可能性があります。
「今すぐ不動産を渡したい」という気持ちはわかりますが、小規模宅地等の特例が適用できるかどうかを必ず事前に税理士と確認することが不可欠です。
費用シミュレーション:土地評価額3,000万円で贈与vs相続を比較
では実際に、路線価ベースの土地評価額が3,000万円(固定資産税評価額2,400万円と仮定)のケースで、「生前贈与」と「相続」の税負担を比較してみましょう。受贈者・相続人は子ども1人とします。
【生前贈与の場合】
- 贈与税:(3,000万円-110万円)×45%-265万円=1,035万5,000円
- 不動産取得税:2,400万円×3%(住宅用地の軽減税率)=72万円
- 登録免許税:2,400万円×2%=48万円
- 合計税負担:約1,155万円
【相続の場合(小規模宅地等の特例を適用)】
- 課税評価額:3,000万円×(1-80%)=600万円
- 相続税(基礎控除3,600万円以内のため):0円
- 登録免許税:2,400万円×0.4%=9万6,000円
- 合計税負担:約10万円
上記の試算では、生前贈与と相続で約1,145万円もの差が生じています。もちろん相続税の課税環境(他の財産の有無・家族構成)によって結果は変わりますが、自宅土地の生前贈与はコストが非常に高くつくケースが多いことがよくわかります。
不動産の生前贈与を検討する際は、「今すぐ渡すメリット」と「節税効果の喪失リスク」を必ず数値で比較し、総合的に判断することが重要です。単独で判断せず、税理士への相談を強くおすすめします。
生前贈与についてよくある質問(FAQ)
生前贈与は何歳からでもできる?
生前贈与に年齢制限はなく、贈与する側(贈与者)も受け取る側(受贈者)も、何歳でも原則として贈与契約を結ぶことができます。
ただし、受贈者が未成年者の場合は注意が必要です。未成年者は単独で法律行為を行う能力が制限されているため、贈与を受ける際には親権者(通常は父母)の同意または代理が必要となります。たとえば、祖父母が孫(未成年)に贈与する場合、贈与契約書には親権者の署名・捺印を忘れずに行いましょう。
また、受贈者が未成年の場合、贈与されたお金を子ども名義の口座に入金するだけでは「名義預金」とみなされるリスクがあります。名義預金とは、名義は子どもでも実質的には親や祖父母が管理している預金のことで、相続税の調査で問題になるケースが多々あります。未成年への贈与を実態あるものにするためには、子ども本人(または親権者)が通帳や印鑑を管理し、贈与契約書をきちんと作成しておくことが重要です。
生前贈与をした後に撤回できる?
「やっぱり贈与を取り消したい」という場面は実際に起こりえます。民法上、贈与の撤回(取り消し)ができるかどうかは、書面で契約したかどうかによって大きく異なります。
書面によらない口頭だけの贈与契約は、まだ履行されていない部分に限り、いつでも撤回が可能です(民法550条)。一方、贈与契約書を作成した場合や、すでにお金の振込・不動産の名義変更など履行が完了した部分については、原則として一方的な撤回はできません。
だからこそ、生前贈与においては贈与契約書の作成が非常に重要な意味を持ちます。「渡した・もらっていない」というトラブルを防ぎ、贈与の事実を明確にするためにも、毎年の暦年贈与であっても契約書を残しておくことを強くおすすめします。なお、詐欺や強迫によって締結させられた贈与契約は取り消しが認められる場合もありますので、不安な点は税理士や弁護士に相談しましょう。
認知症になった後でも生前贈与はできる?
これは非常に重要なポイントです。贈与契約は「契約」である以上、双方に契約内容を理解する判断能力(意思能力)が必要です。認知症が進行して判断能力が失われた状態で行われた贈与契約は、法律上「無効」となるリスクがあります。後になって相続人から「あの贈与は無効だ」と主張され、トラブルに発展するケースも少なくありません。
判断能力が低下した後の財産管理には、「成年後見制度」の活用が一般的です。ただし、成年後見人は本人の財産を保護する立場にあるため、積極的な生前贈与を行うことは原則として認められていません。つまり、認知症になってからでは生前贈与を活用した相続対策はほぼ難しくなるということです。
こうした事態を避けるためにも、生前贈与の計画は判断能力がしっかりしているうちに、できるだけ早期に始めることが大切です。「まだ元気だから大丈夫」と先延ばしにせず、2024年の税制改正で変わった非課税枠のルールも踏まえながら、早めに税理士へ相談することを強くおすすめします。