亡くなった方の財産を受け取れる「法定相続人」は、民法によって範囲と順位が明確に定められており、誰が相続人になるかは家族構成によって異なります。「自分は相続人になれるのか」「兄弟や甥・姪にも権利はあるのか」といった疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
この記事では、法定相続人の基本的な定義から、第1〜第3順位までの優先順位と各相続分の割合、代襲相続が発生するケース、さらに相続放棄や欠格によって相続人が変わる場面まで、図解を交えながら体系的に解説します。また、戸籍謄本の集め方や相続税の基礎控除との関係など、実務で必要となる知識もあわせてご紹介します。
「自分の家族のケースに当てはめて理解したい」という方でも迷わず読み進められるよう、具体的な事例をもとにわかりやすく整理しています。法定相続人をめぐる疑問をまとめて解消していきましょう。
法定相続人とは?相続人との違いと基本的な定義
法定相続人とは何か?わかりやすく解説
法定相続人とは、民法によって「相続する権利を持つ人」として定められた人のことです。誰かが亡くなった(被相続人)とき、その財産や負債を引き継ぐ権利が自動的に与えられる人物を指します。
「法定」という言葉が示すとおり、この範囲は当事者の意思ではなく、民法(第887条〜第890条)によって客観的に決まります。親しい友人や長年お世話になった人であっても、民法が定める範囲外であれば、原則として法定相続人にはなれません。
ここで大切なのが「法定相続人」と「相続人」は意味が異なるという点です。法定相続人は「相続する権利を持つ人」であり、実際に遺産を受け取った人を指す「相続人」とは別の概念です。たとえば、相続放棄をした場合、その人は法定相続人には該当しますが、実際には相続しないため「相続人」とは呼びません。この区別は相続税の計算など、実務上でも非常に重要です。
法定相続人になれる人の範囲
民法が定める法定相続人の範囲は、大きく「配偶者」と「血族」の2種類に分けられます。
【配偶者】
被相続人の配偶者(夫または妻)は、常に法定相続人となります(民法第890条)。ただし、ここでいう配偶者とは法律上の婚姻関係にある人に限られます。長年一緒に暮らしていても、婚姻届を提出していない内縁関係のパートナーは法定相続人にはなれません。これは多くの方が見落としがちな重要なポイントです。
【血族(親族)】
血族は相続順位が定められており、第1順位が「子(およびその代襲相続人)」、第2順位が「直系尊属(父母・祖父母など)」、第3順位が「兄弟姉妹(およびその代襲相続人)」となります。上位の順位の人が一人でもいる場合、下位の順位の人は相続人になれません。
なお、被相続人と養子縁組をした養子も、実子と同様に第1順位の法定相続人となります(民法第809条)。一方、法律上の親子関係がない継子(連れ子)は、養子縁組をしていなければ法定相続人にはなれません。
遺言書がある場合・ない場合での相続の違い
法定相続人の範囲が重要になるのは、主に遺言書がないケースです。被相続人が遺言書を残していない場合、法定相続人が民法の定める割合(法定相続分)に従って遺産を分け合うことが原則となります。この話し合いを「遺産分割協議」と呼びます。
一方、遺言書が存在する場合は少し状況が変わります。有効な遺言書があれば、法定相続人以外の第三者(受遺者)にも遺産を渡すことができます。たとえば「長年支えてくれた友人Aさんに財産の一部を贈りたい」という意思を遺言書に記しておけば、法定相続人でないAさんにも遺産を渡すことが可能です(民法第964条)。
ただし、遺言書がある場合でも、法定相続人には「遺留分」という最低限の取り分が民法によって保障されています(民法第1042条)。遺言書の内容がいかなるものであっても、法定相続人の遺留分を侵害することはできません。
このように「誰が法定相続人か」を正確に把握することは、相続手続きを進めるうえで最初の、そして最も基本的なステップとなります。
法定相続人の範囲と優先順位(第1順位〜第3順位)を図解で解説
配偶者は「常に」法定相続人:順位に関係なく相続権がある
法定相続人の範囲を理解するうえで、まず押さえておきたいのが「配偶者の特別な立場」です。民法第890条では、被相続人(亡くなった方)の配偶者は、他の法定相続人の順位に関係なく、常に相続人になると定められています。
ただし、ここでいう「配偶者」とは法律上の婚姻関係にある人に限られます。内縁のパートナーや事実婚の相手は、どれほど長年連れ添っていても法定相続人にはなれません。また、離婚が成立していれば元配偶者も相続権を失います。この点は非常に重要なので、婚姻関係の有無を戸籍で必ず確認してください。
第1順位〜第3順位の早見表:誰が相続人になるかを一目で確認
配偶者以外の法定相続人には、民法第887条・889条により優先順位が定められています。上位の順位の相続人が一人でもいる場合、下位の順位の人は相続人になれないという「排他的な仕組み」になっています。
【法定相続人の優先順位・早見表】
第1順位:子(直系卑属)
被相続人の子が該当します。子が先に亡くなっている場合は、その子の子(被相続人から見た孫・ひ孫)が「代襲相続」により相続人となります。
第2順位:直系尊属(父母・祖父母など)
第1順位の相続人(子・代襲相続人)が誰もいない場合にはじめて相続人になります。父母と祖父母が両方いる場合は、被相続人により近い世代(父母)が優先されます。
第3順位:兄弟姉妹
第1順位・第2順位の相続人が誰もいない場合にのみ相続人になります。兄弟姉妹が先に亡くなっている場合、その子(甥・姪)が代襲相続しますが、甥・姪の子への再代襲は認められていません(民法第889条2項)。
具体例で整理すると、「配偶者+子2人」がいる家族の場合、第2順位の父母や第3順位の兄弟姉妹は相続人にはなれません。被相続人に子がいる限り、親兄弟は相続から除外されるわけです。
見落としやすいケース:前妻・前夫との子、養子も第1順位の法定相続人
「子どもはいない」と思っていても、実は第1順位の法定相続人が存在するケースがあります。特に注意が必要な典型例を確認しましょう。
▼ 前妻・前夫との子がいる場合
再婚後に亡くなった場合、現在の配偶者との間の子だけでなく、前の婚姻で生まれた子も同等の相続権を持ちます(民法第887条1項)。現在の配偶者と前妻・前夫の子が共同相続人となり、遺産分割協議を全員で行う必要があります。疎遠であっても、血縁がある以上は連絡を取って協議に参加してもらわなければなりません。
▼ 養子がいる場合
法律上の養子縁組を結んだ養子は、実子と同等の法定相続人(第1順位)となります(民法第809条)。一方、養子に出た子(他家の養子になった子)も、実親に対する相続権は失わないため、実子として相続人に含まれます。
▼ 婚姻外で生まれた子(非嫡出子)がいる場合
認知された子は、嫡出子(婚姻中に生まれた子)と同じ相続分を持ちます(2013年の民法改正により平等化)。認知の事実は戸籍に記載されているため、相続手続きでは必ず全ての戸籍謄本を取得して確認することが重要です。
こうした見落としを防ぐためにも、「法定相続人の確認は戸籍の調査から」という原則を徹底してください。出生から死亡までの連続した戸籍(改製原戸籍・除籍謄本を含む)を追うことで、すべての相続人を把握することができます。
法定相続分の割合一覧|配偶者+各順位の組み合わせパターン
配偶者と各順位の相続人が共同相続する場合の割合
法定相続分とは、遺産分割の話し合いがまとまらない場合などに、民法が定める相続割合のことです(民法第900条)。配偶者は常に相続人となりますが、誰と組み合わさるかによって取り分が変わります。以下の一覧表で整理しておきましょう。
【法定相続分 早見表】
| 相続人の組み合わせ | 配偶者の取り分 | その他の相続人の取り分 |
|---|---|---|
| 配偶者+子(第1順位) | 1/2 | 1/2(子全員で分割) |
| 配偶者+直系尊属(第2順位) | 2/3 | 1/3(親全員で分割) |
| 配偶者+兄弟姉妹(第3順位) | 3/4 | 1/4(兄弟姉妹全員で分割) |
| 配偶者のみ | 全額 | ― |
| 子のみ(配偶者なし) | ― | 全額(子全員で均等分割) |
たとえば、配偶者と子ども1人が相続人の場合、配偶者が遺産の1/2、子どもが1/2を受け取ります。配偶者と親(直系尊属)が相続人の場合は、配偶者が2/3、親が1/3です。配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は、配偶者が3/4を取得し、残りの1/4を兄弟姉妹で分けます。
この割合は民法が明確に定めているため、相続が発生したらまずこの組み合わせを確認することが重要です。
同順位の相続人が複数いる場合は「人数で均等割り」
同じ順位の相続人が複数いる場合、法定相続分はその人数で均等に分割されます(民法第900条4号)。具体的な例で見てみましょう。
【例①:子どもが3人いるケース】
配偶者と子ども3人が相続人の場合、子ども全員の取り分は合計で1/2です。これを3人で均等に割るため、1人あたりの法定相続分は「1/2÷3=1/6」となります。配偶者が1/2、子どもが各1/6ずつというイメージです。
【例②:両親2人が存命のケース(第2順位)】
配偶者と父母の両方が存命の場合、直系尊属全員の取り分は合計1/3です。父と母で均等に割るため、1人あたり「1/3÷2=1/6」となります。
【例③:兄弟姉妹が4人いるケース(第3順位)】
配偶者と兄弟姉妹4人が相続人の場合、兄弟姉妹全員の取り分は合計1/4。4人で均等割りすると1人あたり「1/4÷4=1/16」です。
なお、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹(半血兄弟姉妹)の相続分は、父母双方を同じくする兄弟姉妹(全血兄弟姉妹)の1/2になる点にも注意が必要です(民法第900条4号ただし書)。
法定相続分はあくまで「目安」|遺産分割協議で自由に変更できる
ここで重要な補足をお伝えします。法定相続分は、相続人全員が納得できる話し合い(遺産分割協議)がまとまらない場合の「基準」であって、必ずこの割合で分けなければならないわけではありません。
相続人全員が合意すれば、法定相続分と異なる割合で遺産を分けることが可能です。たとえば「配偶者に全財産を渡す」「実家を長男が全部相続する代わりに、他の兄弟に現金を渡す」といった配分も、全員の同意があれば有効です。
ただし、遺産分割協議書には相続人全員の署名・実印の押印が必要となります。一人でも欠けると協議は無効になるため注意しましょう。
また、被相続人が遺言書を残している場合は、原則として遺言書の内容が優先されます。ただし、遺言によっても侵害できない「遺留分」(兄弟姉妹を除く法定相続人に保障された最低限の取り分)が存在するため、遺言書がある場合でも法定相続分の知識は必要です。
「法定相続分の割合を知ること」は、遺産分割協議を円滑に進めるための出発点。まずは自分のケースに当てはまる組み合わせを確認し、必要に応じて専門家(弁護士・司法書士)に相談することをおすすめします。
代襲相続とは?孫や甥・姪が法定相続人になるケース
代襲相続の基本的な仕組み
代襲相続とは、本来の相続人(被代襲者)が被相続人よりも先に死亡していた場合や、相続欠格・廃除によって相続権を失った場合に、その子や孫が「代わりに」相続人の地位を引き継ぐ制度です(民法第887条第2項・第3項)。
例えば、父が亡くなった際に、本来相続人となるはずだった長男がすでに他界していたとします。このとき、長男の子ども(被相続人からみると孫)が長男に代わって相続人になります。これが代襲相続です。
代襲相続人は、本来の相続人が受け取るはずだった相続分をそのまま引き継ぎます。仮に長男の子が2人いれば、長男の相続分を2人で均等に分け合います。「代わりに立つ」というイメージで理解するとわかりやすいでしょう。
なお、相続放棄をした場合は代襲相続の対象外となる点は重要な注意点です。相続放棄はその人が「最初から相続人でなかった」扱いになるため、放棄した人の子は代襲相続人にはなれません。
子の代襲相続は無制限・兄弟姉妹の代襲は一代限り
代襲相続には、相続順位によって大きく異なるルールがあります。ここが実務上も非常に重要なポイントです。
第1順位(子)の代襲相続:無制限に続く
子が被相続人より先に死亡していた場合、孫が代襲相続人になります。さらに孫も亡くなっていれば、ひ孫が代襲します(再代襲)。このように、直系卑属については何代でも代襲が続きます(民法第887条第3項)。
【図解イメージ】
被相続人 → 子(死亡)→ 孫(代襲)→ ひ孫(再代襲)… と無制限
第3順位(兄弟姉妹)の代襲相続:甥・姪の一代限り
一方、兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっていた場合、その子(甥・姪)が代襲相続人となります(民法第889条第2項)。しかし、甥・姪の子(大甥・大姪)は代襲できません。「一代限り」という制限がある点が、子の場合との大きな違いです。
【図解イメージ】
被相続人 → 兄弟姉妹(死亡)→ 甥・姪(代襲・ここまで)→ 大甥・大姪(×代襲不可)
この違いを把握しておくだけで、「自分が法定相続人になれるか?」の判断が格段にスムーズになります。
養子の子どもの代襲相続に関する注意点
養子がいるケースでは、代襲相続についてひとつ重要な落とし穴があります。それが「養子縁組のタイミング」による違いです。
- 養子縁組後に生まれた子 → 代襲相続人になれる
養子縁組が成立した後に生まれた子は、養親の直系卑属として扱われます。そのため、養子が被相続人より先に死亡した場合、その子(養親からみると孫)は代襲相続人になることができます。
- 養子縁組前に生まれた子(いわゆる「連れ子」)→ 代襲相続人になれない
養子縁組の前にすでに生まれていた子は、法律上は養親との親族関係がありません(民法第727条)。つまり、養子が亡くなっても、その連れ子は養親の相続において代襲相続人とはなれません。
【具体例】
Aさんは再婚相手Bを養子に迎えました。BにはCという連れ子がいましたが、養子縁組後にDという子も生まれました。Bが先に死亡した場合、AさんはDだけが代襲相続人となり、Cは対象外となります。
このケースは実際の相続手続きでも見落とされがちなので、戸籍を確認して養子縁組の日付と子の出生日を必ず照合するようにしましょう。
相続放棄・欠格・廃除で法定相続人が変わるケース
相続放棄をすると「最初から相続人でなかった」とみなされる
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産に対する相続権を完全に手放す手続きです。民法939条により、相続放棄をした人は「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」と規定されています。
ここで注意したいのが、相続放棄と代襲相続の関係です。子が相続放棄をした場合、その子の子(被相続人から見た孫)への代襲相続は発生しません。代襲相続が認められるのは、相続人が「死亡・欠格・廃除」の場合に限られており、相続放棄は対象外です(民法887条2項)。
例えば、被相続人の子Aが相続放棄をした場合、Aの子(孫)は代わりに相続人になれません。放棄した分の相続分は他の相続人に帰属するか、次順位の相続人(兄弟姉妹など)に移ることになります。自分の行動が家族全体の相続権に影響を与えるため、放棄を決断する前に必ず専門家への相談をおすすめします。
相続放棄の手続きと「3ヶ月以内・撤回不可」の重要ルール
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から原則3ヶ月以内に、家庭裁判所へ申述書を提出することで手続きを行います(民法915条1項)。この期間を「熟慮期間」と呼び、被相続人の財産状況を調査・判断するための猶予期間として設けられています。
3ヶ月の期限を過ぎると、原則として相続を単純承認したものとみなされ(民法921条)、プラスの財産もマイナスの財産(借金)もすべて引き継ぐことになります。ただし、やむを得ない事情がある場合は家庭裁判所に期間伸長の申立てができます。
さらに重要なのが「撤回不可」というルールです。一度家庭裁判所に受理された相続放棄は、原則として撤回することができません(民法919条1項)。「やっぱり相続したい」と後から気が変わっても、取り消しは認められないのが原則です。借金が多い場合など、放棄を急ぎたい気持ちはわかりますが、プラスの財産も確認した上で冷静に判断することが大切です。
相続税計算では放棄しても「法定相続人の数」に含める特殊ルール
「相続放棄をしたら相続税の計算にも関係ないはず」と思いがちですが、これは誤解です。相続税法上は、民法上の相続放棄があったとしても、その人を法定相続人の数に含めて計算するという特殊なルールがあります(相続税法15条2項)。
このルールが影響する代表的な計算が「基礎控除額」と「生命保険金の非課税枠」です。
基礎控除額の計算
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
この「法定相続人の数」には、相続放棄をした人も含めてカウントします。
生命保険金・死亡退職金の非課税枠
非課税限度額=500万円×法定相続人の数
こちらも相続放棄者を含めた人数で計算します。
【具体例】
法定相続人が配偶者・子2人(うち1人が相続放棄)の場合、民法上の相続人は2人ですが、相続税計算上の法定相続人は3人のままです。基礎控除額は3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円となります。
相続放棄は財産の取得権を失う手続きですが、税務上の人数計算からは除外されない点は覚えておきましょう。
欠格・廃除との違いと法定相続人への影響
法定相続人の地位を失う原因は「相続放棄」だけではありません。「相続欠格」と「相続廃除」も、相続権を失わせる制度です。それぞれの違いを整理しておきましょう。
相続欠格(民法891条)
被相続人を故意に死亡させたり、遺言書を偽造・破棄するなど、法律で定められた一定の非行があった場合に、自動的に相続権が剥奪される制度です。被相続人の意思は関係なく、法律上当然に効力が生じます。
相続廃除(民法892条)
被相続人が生前に「この相続人には財産を渡したくない」と家庭裁判所に申立て、認められた場合に相続権が失われる制度です。遺留分を持つ推定相続人(配偶者・子・直系尊属)が対象です。
代襲相続の発生について
相続放棄とは異なり、欠格・廃除の場合はその子への代襲相続が発生します(民法887条2項・893条)。例えば、子が欠格となった場合、その子の子(孫)が代わりに相続人となります。
また、相続税計算における法定相続人の数え方については、欠格・廃除された人物は人数に含めません。この点が相続放棄と異なるポイントです。三者の違いをしっかり把握することで、自分の状況を正確に判断できるようになります。
法定相続人の確認方法|戸籍謄本の集め方と法定相続情報証明制度
戸籍謄本を使った法定相続人の確認手順
法定相続人を正確に確認するには、被相続人(亡くなった方)の「出生から死亡までの連続した戸籍謄本」を収集することが大前提です。なぜ出生まで遡るかというと、認知した子や婚姻前の子など、現在の戸籍だけでは把握できない相続人が存在する可能性があるからです。
具体的な手順は以下の通りです。
ステップ1:死亡時の戸籍(除籍謄本)を取得する
被相続人の最後の本籍地の市区町村役場で、死亡の記載がある除籍謄本を取得します。
ステップ2:順次、以前の本籍地を遡る
取得した戸籍に「転籍」の記載があれば、転籍前の市区町村役場でさらに以前の戸籍を取得します。これを出生の記載が確認できるまで繰り返します。
ステップ3:相続人本人の戸籍を取得する
配偶者・子・親・兄弟姉妹など、相続人となる方の現在の戸籍謄本(発行から3か月以内)も取得します。
戸籍謄本の取得費用は1通450〜750円程度で、郵送請求も可能です。本籍地が複数の市区町村にまたがる場合は、取得に数週間かかることもありますので、相続が発生したら早めに着手することをお勧めします。
法定相続情報証明制度とは?活用するメリット
2017年5月に創設された「法定相続情報証明制度」は、法務局(登記所)に戸籍謄本一式を提出して「法定相続情報一覧図」を申請すると、法務局の登記官が認証した写しを無料で何枚でも発行してもらえる制度です。
従来は、相続に関する複数の手続き(銀行口座の解約・不動産の相続登記・相続税の申告など)のたびに、分厚い戸籍謄本の束を何セットも準備する必要がありました。しかし法定相続情報一覧図の写しを使えば、戸籍謄本の束を何度も提出する手間が省け、手続きを並行して進めることもできます。
申請の流れ
- 戸籍謄本一式を収集する
- 法定相続情報一覧図(相続関係を図式化した書類)を自分で作成する
- 管轄の法務局に申請書・一覧図・戸籍謄本を提出する
- 数日〜1週間程度で認証済みの写しが交付される
申請は被相続人の最後の住所地・本籍地・申請人の住所地などを管轄する法務局で受け付けています。代理申請(弁護士・司法書士・行政書士など)も可能です。写しは必要な枚数を無料で再交付できるため、金融機関の数だけ取得しておくと手続きがスムーズです。
2024年4月の相続登記義務化で変わったこと
2024年4月1日から「相続登記の義務化」がスタートしました。これにより、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが法律上の義務となり、正当な理由なく申請を怠った場合は10万円以下の過料が科される可能性があります(不動産登記法第164条)。
この義務化は過去に発生した相続にも遡って適用されるため、以前から放置していた不動産がある場合も早急な対応が必要です。
相続登記を行うためには、当然ながら「誰が法定相続人か」を確定させることが不可欠です。法定相続人の確認(戸籍収集)→法定相続情報一覧図の取得→相続登記申請、という流れを早期に進めることで、義務化への対応と各種相続手続きをスムーズに完了させることができます。
相続が発生したら、まず戸籍謄本の収集に着手し、必要に応じて司法書士などの専門家に相談することをお勧めします。法定相続人の早期確定は、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)への対応にもつながる、重要な第一歩です。
法定相続人と相続税の関係|基礎控除・非課税枠の計算方法
相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」
相続税を計算する上で、最初に押さえておきたいのが「基礎控除額」です。基礎控除額とは、相続財産がこの金額以下であれば相続税がかからない、いわば非課税の上限ラインのことです。
計算式は次のとおりです。
【基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数】
法定相続人が1人なら3,600万円、2人なら4,200万円、3人なら4,800万円、4人なら5,400万円と、法定相続人が1人増えるごとに600万円ずつ非課税枠が拡大します。つまり、法定相続人が何人いるかを正確に把握することが、そのまま節税に直結するのです。
例えば、遺産総額が5,000万円のケースを考えてみましょう。法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人であれば、基礎控除額は4,800万円となり、課税対象は200万円にとどまります。一方、法定相続人が1人だけなら基礎控除額は3,600万円となり、課税対象は1,400万円にまで跳ね上がります。このように、法定相続人の数の違いが税負担を大きく左右することがわかります。
なお、ここでいう「法定相続人の数」は民法上の法定相続人とは異なる場合があります。相続放棄をした人がいても、相続税法上の基礎控除計算では放棄がなかったものとして人数に含めるという重要なルールがあります。この点は後述の相続税法独自ルールで詳しく解説します。
生命保険金・死亡退職金の非課税枠も法定相続人の数で決まる
相続税において「法定相続人の数」が影響するのは基礎控除だけではありません。生命保険金と死亡退職金にも、それぞれ次の非課税枠が設けられています。
【生命保険金の非課税枠=500万円×法定相続人の数】
【死亡退職金の非課税枠=500万円×法定相続人の数】
例えば、法定相続人が3人いる場合、生命保険金は1,500万円まで非課税、死亡退職金も1,500万円まで非課税となります。両方を合わせれば最大3,000万円もの財産が相続税の課税対象から外れる計算です。
この非課税枠を活用した生命保険の加入は、代表的な相続税対策の一つです。ただし、非課税枠の適用を受けられるのは「相続人として保険金を受け取った場合」に限られます。相続放棄をした人が受け取った生命保険金は非課税枠の対象外となる点に注意が必要です。
具体的なケースで確認してみましょう。被相続人の妻と子ども2人(合計3人)が法定相続人の場合、法定相続人の数は3人なので、生命保険金の非課税枠は500万円×3人=1,500万円です。1,500万円を超える保険金を受け取った場合、超過分が相続財産に加算されて課税対象となります。法定相続人を正確に把握しなければ、この計算を誤るリスクがあるため、相続開始後は速やかに戸籍調査で法定相続人を確定させることが大切です。
相続税法独自のルール|養子・相続放棄の扱いに注意
相続税の計算における「法定相続人の数」は、民法上の法定相続人の数と異なる場合があります。特に重要なのが、養子と相続放棄に関する相続税法独自のルールです。
相続放棄した人は人数に含める
民法では相続放棄をすると初めから相続人でなかったものとみなされますが、相続税法の基礎控除・非課税枠の計算では、相続放棄をした人も法定相続人の数に含めます。例えば、子ども3人のうち1人が相続放棄をしても、法定相続人の数は3人のまま計算します。
養子を含められる人数に上限がある
養子は民法上は法定相続人になれますが、相続税の計算では税負担を不当に減らすことを防ぐため、カウントできる養子の人数に制限が設けられています(相続税法第15条第2項)。
- 被相続人に実子がいる場合 → 養子は1人まで
- 被相続人に実子がいない場合 → 養子は2人まで
例えば、実子が1人いる状態で養子を3人迎えていたとしても、基礎控除の計算に含められる養子は1人だけです。ただし、代襲相続人となる孫養子などは実子と同様の扱いになるケースもあるため、専門家への確認が必要です。
これらの相続税法上のルールは民法とは別の基準であるため、混同しないよう注意が必要です。正確な法定相続人の把握と相続税計算は、税理士などの専門家に相談しながら進めることをおすすめします。